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2006年11月24日 (金)

アカデミー賞のダークホース「バベル」

Babel220 “バベルの塔”とは旧約聖書の『創世記』に出てくる伝説上の巨大な塔。実現不可能な天に届く塔を建設しようとして神の怒りに触れ、崩れてしまったといわれています。マンガ版の「バビル2世」を読んでいた我々の世代にはおなじみですが、Wikipediaによれば“すなわち、もともと人々は同じ1つの言葉を話していた。シンアルの野に集まった人々は、れんがとアスファルトを用いて天まで届く塔をつくってシェム(ヘブライ語、慣習で名と訳されている)を高くあげ、全地のおもてに散るのを免れようと考えた。神はこの塔を見て、言葉が同じことが原因であると考え、人々に違う言葉を話させるようにした。このため、彼らは混乱し、世界各地へ散っていった”との事で、“コミュニケーションの断絶”を描くこの映画にはこちらの方が良く似合います。

 「アモーレス・ぺロス」「21グラム」のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の新作は、コミュニケーションと交通の発達によって世界はこんなにも繋がったのに、結局人は繋がっていないというヘヴィな、かつ見ごたえのある映画。今年のアカデミー賞を受賞した「クラッシュ」と同じようなテーマを扱い、同じ群像劇★のスタイルを取っている点等、いくつかの共通点を持っていますが、LA限定だった「クラッシュ」に比べ、世界の3大陸をまたぐスケールの大きさにより、より深く残酷な“壁”を見せつけられる事となります。今年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞し、来年のアカデミー賞の穴馬(ダークホース)とも目される映画です。

ストーリーは基本的に下記の3つの場所で起きる出来事が交錯していきます。

モロッコ:
Babel4 夫婦の亀裂を埋めようと、子供を家政婦に預けモロッコを旅するアメリカ人夫婦(英語・ブラッド・ピット&ケイト・ブランシェット★★)。そのモロッコで羊を追う10代の兄弟(多分ベルベル語・地元の演技経験のない子供とか)は、羊を狙うジャッカル対策に父親から猟銃をもらって興奮している。
Bkline

アメリカ・サンディエゴ/メキシコ・ティファナ国境:
Babel5 アメリカで二人の子供(女の子はダコタ・ファニングの妹・エル・ファニング)を預かるメキシコ人家政婦(アドリアーナ・バラーザ)。メキシコで行われる自分の息子の結婚式に参加する事を決意するが、子供を預かってくれる人がおらず、仕方なしに(アメリカでは子供だけを家に残して外出する事は違法)、子供たちも結婚式に同行させる。楽しい時間を過ごした後に、甥(注目株ガエル・ガルシア・ベルナル)の運転する車で国境に向かうが・・・(アメリカでは英語、メキシコではスペイン語)。
Bkline

日本(赤坂?):
Babel3 モロッコに比べれば、殆ど未来世界の東京。最近母親を亡くした聾唖者の女子高校生(菊地凛子)。自分を特殊扱いする廻りの世界に対して反抗的な彼女の性的な覚醒が、仕事中心の父親(役所広司)の目の届かぬ世界で暴走する(100%日本語)。
Bkline

 9月初めにお伝えした通り、言葉ではなく目の力と、文字通りカラダを張った見事な演技を披露した菊地凛子の演技が絶賛されており、アカデミー賞・助演女優賞へのノミネートが有力視されています。日本人の目から見るとどうしても、実年齢(25歳)での女子高生役に無理を感じてしまうのですが、欧米の目から見れば十分に高校生に見えるはずで(こちらではよく日本人奥さんたちが子供に見られ、お酒を買えない)、ひょっとすればひょっとするかも。また役所広司も出番は少ないながら好演しています。
○2006.12.11追記:アカデミー賞に関しての状況はこちら:2007アカデミー賞を探る:助演女優賞

 アドリアーナ・バラーザの家政婦役、モロッコの少年達等も素晴らしい中で、注目はブラット・ピット。「Mr. & Mrs. スミス」から一転、年齢相応のくたびれた白人中年役を様々な表情で好演しており(「12モンキース」を見れば判りますが、この人は元々結構うまい)、実力を再評価されており、アカデミー賞へのノミネートが噂されています(主演or助演の問題はありますが)。相対するケイト・ブランシェットは相変わらずうまいのですが、今回は殆ど寝ている(?)ので賞レースへの参加はお休み。注目株ガエル・ガルシア・ベルナルはあまり目だっていません。

 夫婦、父息子、兄弟、モロッコ、サンディエゴ(アメリカ)、ティファナ(メキシコ)、国境、父娘、娘母、友人、東京、貧富、文化、母息子、甥、姉弟、元夫婦。暴力と犠牲。献身とエゴ。全てを隔てる壁、そして繋ごうとする絆、希望と絶望。「クラッシュ」が温室の中の出来事に思えるような優れた作品ですが、自分が弱っているときにはかなり心と体に圧し掛かってくるヘヴィな映画でもあるので、体調にお気をつけてご覧下さい。

★ここにも、今月20日に亡くなったロバート・アルトマンの影響が・・・
★★とっても「シェルタリング・スカイ」。あの絶望的な青い空がここでも引き立っています。

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コメント

待ってました!
本でいうところの読後感あるイニャリトゥ監督作品が
大好きです。
さらに、今回は日本人の女優さんが絶賛されているとのことで
こちらで早くとりあげられないかと、いまかいまかと
待っておりました。
見終わった後に私はいったいどんなことを考えるんだろうか、
とおもうと日本公開が待ちきれません。
どうもありがとうございました。

投稿: べん | 2006年11月29日 (水) 21時33分

★べんさん、コメントどうもありがとうございました。

この作品も、見終わった後、ずし~んという”読後感”ありますので、わくわくしてお待ち下さい。アカデミー賞の最新状況については今週末にもまとめます。菊地凛子さんの影に隠れていますが、役所広司さんも良くほめられており、日本人として嬉しいかぎりです。仕事でアメリカ・メキシコ国境を良く超える私には、日本のティンエイジャーより、メキシコのおばさんの方が身近なのですが(笑)。

投稿: rambler | 2006年11月30日 (木) 14時28分

こんにちは。
TB返しは何度かいただいていますが、ひょっとするとコメントさせていただくのは初めてだったでしょうか。
私のブログで菊地凛子さんについて書いたのでTBさせていfただきました。
『バベル』の日本公開はまだ5ヶ月も先らしく、公開が待ちどおしいですね。

投稿: umikarahajimaru | 2006年12月11日 (月) 05時12分

おはようございます。

昨夜、観てきました。
なるほど、菊地凛子は欧米の目から見ると、
十分、高校生で行けるのですね。
彼女の役柄は、アカデミー会員受けしそうですね。

個人的にはメキシコ人家政婦を演じたアドリアーナ・バラーザの巧さに
目が行きました。

作品としてはオスカーは難しいのではないでしょうか?
構成が『クラッシュ』と似ているし、
『ミリオンダラー・ベイビー』から3年続いての
ヘビーなテーマは敬遠されそうな気がします。
と言うことはイーストウッドも厳しく、
結果、(観てはいませんが)『ドリームガールズ』に落ち着きそうな気がします。
このあたりでスコセッシ、
『ディパーテッド』に取ってほしいですが…。

投稿: えい | 2007年1月23日 (火) 09時52分

あらら。

『ドリーム・ガールズ』、作品賞ノミネートからはずれましたね。
となると、この『バベル』が急浮上と言う、
コメント書き込みを一日にて取り消す、
恥ずかしい事態となりました。(汗)

アドリアーナ・バラーザとジャイモン・フンスーの
ノミネートは嬉しかったです。

投稿: えい | 2007年1月24日 (水) 11時36分

★えいさん、コメントいつもありがとうございます。

 一昔前までだったら間違いなく”最有力候補”だった「ドリームガールズ」が、作品賞候補からはずれた件に関しては、現地のメディアも驚きを持ってみており、昨年やはり「ウォーク・ザ・ライン」が入らなかったこと等と比較されています。

 「ミリオンダラー・ベイビー」「アビエイター」「クラッシュ」「ブロークバック・マウンテン」「カポーティ」「ミュンヘン」「グッドナイト&グッドラック」という最近の”重たい”流れから考えると今年のノミネート作も納得できます。

 アドリアーナ・バラーザの巧さ、同感です。個人的には仕事でちょくちょくアメリカ/メキシコ国境超えをしているので、日本の女子高生よりも遥かに身近な存在でした(笑)。

投稿: rambler | 2007年1月24日 (水) 18時35分

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